商品:「ユニクロ帝国の光と影」横田 増生(文藝春秋)
評価:☆☆☆
価格:690円(Kindle版)
ヒートテックやフリースなど、今やどの家庭でも必ず一着や二着は持っており、「日本人の国民服」と言っても過言ではないユニクロ。
ユニクロを運営するファーストリテイリング社は、時価総額は約4兆円と、小売業の中ではあのセブンイレブンとほぼ同じ。
まさしく日本最強の小売業といっても過言ではない。
ただしその実態はあくまで「柳井社長の個人商店」であり、そこで働く従業員は、安い給料と過酷なサービス残業を強いられている。
中でも、「スーパースター店長」などと祭り上げられ、一見華やかそうに見える店長も、労働環境は劣悪で、給料も平均600万円程度、退職率も非常に高いというもの。
さらに、低価格を支える中国の下請け工場にも取材を試みており、ここでの労働環境は、日本よりも更に劣悪な環境とのこと。
柳井社長や元従業員へのインタビュー、中国への現地調査など、ルポタージュの基本である「現地現物」は徹底されており、良く調査して書かれているとは思うものの、本を読んだ第一印象は、
「訴えるほどの内容か?」
ということ。
個人的には、正直、ある程度想像の範囲内であり、小売業なら多かれ少なかれあるのではないかと思ってしまった。
もちろん今風に言えば「ブラック企業」であることに疑いの余地はないとは思うが。
それよりも何よりも、この小説および一連の裁判を通じて感じたのは、柳井社長の独善性。
自ら連れてきた玉塚社長をわずか3年で更迭したり、本書を訴えたりする背景を探ると、結局は、自分が誰よりも正しく、自分以外の価値観は認めないという彼の人間性、人間としての小ささの表れだと思う。
トップに立つ人間というのは、このくらいの独善性やある意味狂信性を持っていないと務まらないのかもしれないが、この辺りは、トランプ大統領に通じるものがあるのでは、と感じた。
そういった意味では、本書の最終章で柳井社長の後継者問題がユニクロの最大の課題と位置付けている著者の分析事態は、非常に的を得ていると思う。
ちなみに、裁判自体はユニクロ側の全面敗訴が決定しており、結果的に本書に書かれた内容の正当性が公にも裏付けられた格好。
小売業で働いている人やユニクロへの就職を考えている人にとっては、日本で最も成功している小売業の実態を知るという点で興味深い本だと思うが、一般人ウケする本ではないと思う。
☆3つ